Devil†Story
「んー……」

珍しく刹那が頭を抱えていた。しきりに時計や携帯を見ている。何処となくソワソワしている様子だ。うーん…。小さい子じゃないしそこまで心配しなくてもと思うけど遅過ぎるような気がする…。ぐるぐると思考を巡らせている時だった。


「ーー聞いてる?」


「わ!?」


突然、目の前に顔が現れて椅子から転げ落ちそうになる。見るといつの間にか部屋に入ってきていた稀琉がいた。


「ビックリさせないでよ〜!心臓止まるかと思った…」


早鐘の様に鳴り響く胸を手で押さえる。


「ごっごめん。ノックしたんだけど…」


あまりの刹那の驚きぶりに申し訳なさそうに稀琉は謝る。そういえば音がしてたような気がする。それに気づいた刹那は「俺こそごめん。考え事してて」と椅子に体勢を整える。


「それは大丈夫!それより珍しいね。ノックに気付かないくらい考え方してるなんて」


そう聞いてくる稀琉に「紅茶飲む?」と聞きながら立ち上がる。稀琉は元気良く頷いた。


「いや大したことないかもしれないんだけど…。麗弥がまだ帰って来なくて」


ケトルに入っていたお湯をティーポットに注ぎ、蒸らす行程を行いながら刹那は答えた。


「あれ?まだ任務終わってないの?午前中からだったよね?」


「そうなんだよねー…携帯にはもちろんカラスでの一報もなくて」


蒸らし終わったのであろう。会話をしながら用意していた2つのティーカップに紅茶を注ぎ始める。一気に室内に芳醇な香りが漂いその香りだけでもリラックス出来る。


「それはちょっと気になるね」


ちらっと時計を見るともう18時を過ぎている。朝から出かけているので遅すぎるような気がした。手渡しでティーカップを渡してきた刹那にお礼をいいながら目の前に置かれたミルクと角砂糖を1つ入れた。角砂糖が紅茶に沈むと砂糖に含まれた空気が気泡として浮かび上がってきた。ティースプーンで混ぜてから口をつける。


「過保護じゃないけどなんとなく胸騒ぎがして。任務自体もそこまで時間のかかるものじゃないから余計ね」


続いて刹那もティーカップに口をつけた瞬間であった。


「何がー?」


「わっ!」
「ぶっ!」


突然聞こえた別の声に2人は驚いた。稀琉に関してはティーカップから口を離していたので良かったが、刹那は口をつけたばかりだった。…それも淹れたての熱い紅茶をだ。


「あつっ!ゴホッ!ゴホ!」


案の定熱々の紅茶が吹き出したことにより唇に当たって火傷寸前だ。おまけに驚いた拍子にヒュッと気管に僅かに紅茶が入り盛大に咳き込んでいた。


「ロ…ロス!驚かさないでよ!」


「オレも危なかったよ」とティーカップを机に置いてから声のした方向に目を向けるとそこにはロスが居た。驚くことにいつの間にか椅子に座って机に寄りかかっていた。


「うぃーす。こんなに簡単に侵入を許しちゃうなんてまだまだだな。稀琉」



ロスは笑いながら指でピースを作る。


「無理言わないでよ〜…いつもロスはいつの間にか部屋の中にいるんだもん」


「ゴホゴホ!…もう〜!勘弁してよー!唇火傷しちゃったじゃんか!ゴホゴホゴホ!」


いまだに盛大に咳き込んでいる刹那に「刹那もきちんと周り見てないと危ないぞ」と呑気に言っている。そんなロスを恨めしそうに見つつ暫くの間、刹那は咳き込んでいた。



「あー…咳をし過ぎて喉痛い…。クロムは?」


ようやく落ち着いてきた刹那は保冷剤で口を冷やしながらクロムの所在を聞いた。


「まだ寝てるよ。起こすなって言われたから暇で来たんだよね〜」


ふぅと溜め息をつきながら言った。


「えー?!クロムまだ寝てるの?あの後すぐ寝たんだよね?」


驚く稀琉にロスは呆れたように頷いた。


「長めのシャワー浴びてたけどすぐ寝たよ。確かにほぼ徹夜の任務だったんだけどな」


「オレと朝会ったのって…6時くらいだよね?それにしたって半日くらい寝てない?」


「そうなんだよ。あいつの睡眠欲は異常なんだよな」


「相変わらずよく寝るねークロムは。体痛くならないかな」


「刹那…それじーさんみたいだから」


1人だけ大人な発言をした刹那にロスは思わずそう言った。年齢を気にしている刹那は「俺は元々ショートスリーパーだからそんなに横になると体が痛くなるんですぅ」とまるで子どものような反論をした。


「でも本当だよね。オレもあんまり寝てる時間長いと体気持ち悪いもん。一回も起きたりしないの?トイレとか喉乾くとかで」


刹那のフォローしつつロスに質問をする。クロムとロスの私生活は謎に包まれている。2人とも積極的に話すタイプではないので単純に興味があった。


「起きない起きない。本当一度寝たら睡眠だけに時間を費やす感じ」



「ある意味すごいなー。まるで猫みたいだね」


稀琉は率直な意見を述べた。確かに昼間ぐっすり寝ている猫の姿と今のクロムの姿は類似している。その発言にロスは納得したように手のひらをグーで叩いた。


「あー!確かにそうかもな!あいつさ寒がりだろ?だからかたまに本当の猫みたいにまるまってーー「誰が猫だ?」


バシッ!


ロスが言い終わる前に誰かに頭を殴られた。先程と同じような状況に稀琉と刹那は3度目の驚きの声をあげた。


「いった!」


またまたいつの間にか起き出して部屋に入っていたクロムがそう言った。
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