やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】
「さ、小夜さん!捕まえてください!」
私の後ろから、執事の声が響いてきた。
執事は、感のいい組長に気付かれないように、取調室からかなり離れた場所で待機していたのだ。
『あっ!』
執事の言葉に私と組長は、お互いの顔を見合わせて、同時に同じ言葉を吐いた。
しかし、その後のお互いの行動は違っていた。
飛びかかる私と取調室の中に逃げる組長。
組長の服に触れる私の指先。
バタンッ!
「あぁぁぁ・・・・はぁ~・・・。」
取調室のドアの前の廊下に残念そうな表情でへたり込む私。
残念ながら、指先では、組長を捕まえることは出来なかった。
組長は、無事、取調室の中に戻っていった。
「寝起きを利用するとは、なかなかやるな、小夜。」
ドア越しに組長の声が響いてきた。
言っていることは意味不明。
私は、何ひとつやっていない。
あくまで、寝ぼけた組長が起こした偶発事故のようなもの。
しかし、私は、これを利用することにした。