やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】
これが、異常なほど簡単な作業だった。
なぜなら、すでに取調室の外は、多くの女性警察官の方で野次馬が出来ていた。
その目的は、当然、執事。
執事の顔が、警察署内で噂になり、そして、時間を経て、一度だけでも、その顔を見ようと集まってきているのだ。
「あの~、申し訳ありませんが、紅茶を2つ欲しいという事なんですけど・・・。」
私は、申し訳なさそうに野次馬の女性警察官達に声を掛ける。
すると、我先にと野次馬は消え、3分後には、20杯近くの紅茶が、私の目の前に用意されていた。
「あはははは・・・はぁ~・・・あの~・・・申し訳ないんですけど、2つでいいので、この2つだけいただきます。」
私は、ギラついた女性警察官達の視線が怖いので、視線を合わせないようにしながら、素早く2つだけカップを取ると取調室の中へと戻っていった。
そして、執事と組長が向かい合う机の上にその紅茶を置いて、私は、先ほどと同じ壁際へと戻った。
「あっ、小夜さん。申し訳ないのですが、大和の目を少しの間、両手でふさいでおいてもらえますか?」
「・・・目を・・・ですか?」
「はい。大和の両目をです。」
私は、執事のやりたいことはわからなかったが、当然、執事の命令に逆らうことはありえないので、言われるがままに、組長の背中側に回って後ろから、両手で組長の両目を隠した。
「・・・・何が始まるんだ?」
目を隠された組長は、少し不安そうな声を出したが、抵抗しないところを見ると、何が起こるのかウキウキしているらしかった。
それを証明するかのように、組長の頬の筋肉はうれしそうにピクピクと動いていた。