やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】
「あら?それはこちらのセリフよ、龍一。」
女性は、そんな執事の冷笑などどこ吹く風で無視していた。
「あなたに、龍一などと呼ばれると。気持ち悪くて寒気がしますね。」
「そんなに気に入っていただけたなら、ベッドの中で耳元でささやいてあげてもいいわよ。」
女性は、妖艶な笑みを浮かべる。
女性の私が見ても、思わず、つばを飲み込んでしまいそうになる表情。
しかし、意外なことに、そういうことに敏感な組長は、まったくの無表情で執事と女性のやり取りを眺めていた。
「申し訳ありませんが、これでも女性の好みは、うるさい方なのですよ。」
「あら、美女は嫌い?」
自分のことを臆面もなく美女と言い切る女性。
サングラスで目は、見えなかったが、それ以外のところから、女性の言葉に嘘はないことは、私にも推測できた。
「美女は嫌いではないのですが、ゲスは嫌いなんですよ。」
残念そうに肩を竦める執事。
「・・・・死にたいの?」
執事にゲス呼ばわりされ、一瞬で女性の表情が変わった。
その表情は、先ほどの執事が見せた表情と同じで、見る者を凍えさせてしまいそうな冷たい表情だった。