やくざと執事と私【第3部 上巻:ラブ&マネー】
「遠慮なくどうぞ・・・・その方が、こちらも遠慮なく殺せますから。」
完全に執事もスイッチが入っていた。
「落ち着けよ、龍一。」
部屋の中の緊張が、マックスに達して爆発しそうな一瞬前で、今まで無表情に執事と女性の様子を眺めていた組長が、初めて声をだした。
「・・・・ふぅ。」
組長の言葉で我に返ったのか、執事は、大きくため息をついて、女性から離れ、私と同様に組長の背中の後ろに立った。
「まあ、座れよ。」
組長は、先ほどまで執事が座っていた、組長と対面のイスを女性に進めた。
長身の白人の男性が、イスを下げ、そのイスに女性が腰を下ろす。
「用件は何だ?」
「あら、わざわざ、会いに来てあげたのに、いきなり用件なの?早い男は、嫌われるわよ?」
女性は、長い舌を出し、自らの下唇をゆっくりと舐める。
「悪いな。ゴリラを抱く趣味はないんだよ。」
組長の言葉にも容赦がなかった。
女性の頬の筋肉が引きつる様子が、見て取れた。
「・・・・まあ・・・いいわ。私もサルと寝る趣味はないから。」
「だったら、さっさと用件に入れよ。」
「・・・・あなた達、まさかとは思うけど、私達のテリトリー、荒らしてないわよね?」
女性は、一瞬、間を置いてから、用件を切り出した。
「・・・もし、そうだとしても、ここで、はい、そうです、すいませんでしたなんて言う奴いると思うのか?」
組長は、まったく表情を変えることなく、女性を真っすぐに見ている。
女性も真っすぐに組長を見ているが、サングラスをしているために、その視線がどこを向いているのかはわからない。