わたしの名前は…





「サキ…
あんたは―――」



庭先でカラーインクの燃える黒煙があがる…

しゃがみ込んで、
本を切り裂き火を点ける、イカレた娘…




「二十歳にもなって、あんたは―――」

そう言うと、
母は私から本の残りを取り上げ…

あとは何も言わず、
すごい形相で本を切り裂き、
あがる炎へと放り込んだ…



そして、
本が燃えるのを
黙って睨み付けていた…





「母さん―――」



母が何を思い、
言いたいか、は何となく伝わった。




「母さん、
病院…
付き合って…
サキ…」

そこまで言いかけただけで母は、

「分かった。
分かったから、寝なさい。
あんた、死んでしまう…」



そう言って、私を抱き締めた…。



「こんなに痩せて…
こんなにキズ付いて…
あんたの身体かわいそうだ…
私の娘をこんなに苦しめるなんて
それなら孫でもいらない!」





母は知っていた…


妊娠しているのも、

私が、
また、食べられなくなっているのも…





「サキが元気に笑ってれば、
私の娘が生きていれば、
母さんは孫なんていらない…」





私は燃える炎をそのままに
独り、部屋に戻り
眠った…



目が覚めたときはもう夕方だった―――





次の日母は会社を休み、
私を病院へ連れて行った…



コウキから
携帯に何度も電話が来ていた…

私は1度もそれに出なかった。



本当に、
何も話すことなんてなかったから――




病院までの車の中、
母も私も何も語らず…




何度となく鳴り響く携帯――

「出ないの?…
コウキでしょ?」

「うん…
でも、もう、
関係ない人だから…」



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