わたしの名前は…





「…着いたよ。」


「…うん。」


「どうした?行くよ?」




降りれない―――


ほら、降りなくちゃ。
ほら、行かなくちゃ。

ほら!殺さなくちゃ―――




「殺し…たくない…
本当は殺したくないよぉ!!
産みたいよぉ!!
何で…何で!
何で私の子殺すの!!!」


母に向かって叫んでいた。


でもそれは、
コウキに向かって叫んでいた…



声のトーンなんか考えられる状況じゃなかった…




大声で泣く私に、
母はやさしく微笑み、




「診てもらお?
堕ろすにも、産むにも、
まずは診てもらお。」


そしてさらに微笑んだ…





“産んでもいいよ。”


私が自分で閉ざした選択肢…

無くすしかなかった、
選択肢―――





「さぁ!行こ!」

助手席のドアを開け、
母に肩をたたかれ、
私は車を降りた…






「おめでとうございます!
最終生理がはっきりしないから、
今の大きさから予定日決めると、
今は妊娠12週です。」



そう言って医師が見せたエコー写真には、
はっきりと人間のカタチの我が子が…いた。



「初めて見た…」



3度も妊娠していて、
初めて我が子の姿を見た。



なんだろう、あの感覚は…


自分の中に、
人間がいると感じるあの感覚は…




たまらなかった…


あの姿を見て、
堕ろすぞ、殺すぞなんて、
頭の片隅にも思えなかった―――


守りたい。
守らなきゃ。

産んでこの子に逢いたい―――

この子を抱っこしたい――



それ以外の考えなんて思いつかなかった…

それ以外の選択肢なんて
なかった―――

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