耳のない男


しばらく黙り込んだまま作業を続ける男を、私はぼんやりと眺めながら、その助かった赤ん坊はその後どうなったんだろうと考えていた。


4杯目の焼酎を飲み終わる頃、私はかなり酔いが回って、気持ちよくなっていた。


締めにどうぞ、と男が小さな小鉢を差し出したのはそんなときだった。


──赤ん坊はね、忌み嫌われたんです、その後。


唐突に言われたその言葉に、私はパッと顔を上げ、彼の方を見た。
そこにあったのはどこか、暗闇を見据えているかのような陰鬱な瞳。


──何故?


それでも私は好奇心に勝てずに問い返していた。


小鉢の中は、くらげと梅肉の和え物だった。濃い梅の色がまるで血の様に見えて、私は一瞬だけ息を止める。




< 10 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop