耳のない男
しばらく黙り込んだまま作業を続ける男を、私はぼんやりと眺めながら、その助かった赤ん坊はその後どうなったんだろうと考えていた。
4杯目の焼酎を飲み終わる頃、私はかなり酔いが回って、気持ちよくなっていた。
締めにどうぞ、と男が小さな小鉢を差し出したのはそんなときだった。
──赤ん坊はね、忌み嫌われたんです、その後。
唐突に言われたその言葉に、私はパッと顔を上げ、彼の方を見た。
そこにあったのはどこか、暗闇を見据えているかのような陰鬱な瞳。
──何故?
それでも私は好奇心に勝てずに問い返していた。
小鉢の中は、くらげと梅肉の和え物だった。濃い梅の色がまるで血の様に見えて、私は一瞬だけ息を止める。