耳のない男
私は即座に言葉を返せず、その男の目をジッと見返した。
ようやく口から出た言葉と言えば。
──へぇ……それは大変だったね。
などという、何の変哲もないつまらない台詞。
しかし目の前の男はそれを聞いてくすりと笑った。笑うとその目尻にシワが寄る。すると途端に人懐っこい雰囲気に変わった。
──その反応も初めてです。
──他の人はどんな反応をするんだい?
私は興味をそそられて問い掛けていた。
男はレバーを串に刺すのを終え、今度は砂肝に取り掛かった。
私はやはりその綺麗な指先に視線が引き寄せられる。