耳のない男
私は男の指先を見ながら、聞きたいね、と返した。
焼き鳥の仕込みを終えた彼は、一度手を洗い、今度は鰹をさばきはじめた。
包丁でリズムよく魚をさばいていく様は堂に入っていて、感心してしまった。
──いつからこの仕事を?
──三年ほど前からです。それまではふらふら遊んでたんですよ。
目を細めて笑うと、男は鰹を包丁でこぎみよく叩き始めた。どんどん細かくなっていくそれが、まるで生々しい肉の様に思えてきて。
──何を作ってるんだい?
──鰹のユッケです。貴方もいかがですか?人気があるんですよ、これ。
私はそれじゃあ、と頷いてから男にまた問い掛けた。
──で?面白い話というのは一体なんだい?