耳のない男
──水畏村(ミナイムラ)。
ある海沿いにある小さな村だった。閉鎖的なその集落では、村人は皆それぞれの顔も名前も、全てを把握していて。ある意味では村人全員が家族のようなものだった。
海に近い村だったためか、その村には小さな祠があった。
海の神を祭っていたのだ。
漁に出る前と後には必ず御参りをし、年に一度の祭りも行われていた。
祭り。
その村では古くからの慣習で、祭りには贄が必要だった。
海の神はその村では女だと言い伝えられていた。
当然のように捧げられるのは若い男。
一年に一人、その村からは青年がいなくなっていった。
家族同然の人間を失うことは、彼らにとってとても辛い事だった。
このままでは村の男衆がいなくなってしまう。
なにもこの村の男でなくても。
若い男でなくても。
人々は口々にそう言い出した。