耳のない男
ことん。
そこまで話して、カウンターの中の男は言葉を切った。
目の前には先程さばいていた鰹でつくったユッケ。
──どうぞ。
私はゆっくりとそれを口に運びながら問い掛ける。
──村の人はどうなったの?
──ほとんどの人間が波にのまれて亡くなりました。
口の端に微かな笑みを浮かべたまま、男は次の料理に取り掛かった。
鶏の挽肉を手で捏ね始める。
グチャグチャという音が耳障りだ。
──ほとんど。ということは生き残った人がいたわけだ。
私が言うと、それを待っていたかのように彼は笑った。
真っ黒な瞳が笑みを形作る。
それを見て何故だか背筋が冷たくなった気がした。
訊かない方がよかったのではないか。
そんな後悔が瞬時に生まれた。