哀歌 <短>
Lonesome
今日、最後の授業を終えるチャイムが鳴り響く。
起立と礼も意識半ばに、誰もが開放感を覚える瞬間だ。
空っぽのカバンをぶら下げて、急ぎ足でドアから飛び出していく男子達。
アッチでは、教室に居座って、お喋りを楽しむ女子の群れ。
毎日毎日、代わり映えのない風景。
そして、あと数秒後には、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきて
教室の扉が、乱暴な手によって、勢いよく開かれる。
それから、イタズラな笑顔を、顔いっぱいに広げたヤツが、私の名前を呼ぶ。
これが、私にとっての日常だった。
10秒、20秒……
あと、5秒で足音が聞こえてくる。
5、4、3、2、1――
……30秒、40秒。
足音は聞こえない。
教室の真ん中に掛けられた電波時計の針が、正確な時を刻む。
――1分。
だけど、アイツは現れない。
滑らかな動きで、1周、2周……
秒針が12の場所を、ちょうど5回通り過ぎたところで、私はため息を机の上に残して立ち上がった。
あれから私は、何度こんな時を過ごしたのだろう。
あれから何度、机の上に憂鬱な吐息を積もらせたのだろう。
私は何度、いつでも変わらない表情で動き続ける、あの秒針と見つめ合ったのだろう――
今日は、1年前にパッタリと私の前から姿を消した恋人、悠真を探しに行く日だ。