I love U
「みゃあ」
目の前を、黒い影がさっと走り抜けた。気づけばさっきまで優雅に伸びていた薄茶色の野良猫は私の隣にちょこんと座って毛並みを整えている。黒い影は、近づいてみるとやっぱり真っ黒な野良猫で、すぐにベンチの上に飛び乗った。
「なんだ、デートの待ち合わせか」
ぽつりと呟いた私を横目に、二匹はさっとベンチから飛び降り夕闇に消えていった。

随分忘れていた感覚で、私はきっと、どうしていいのか分からないのだ。多分、ただ、それだけのことだ。
ふと、明日会う友達のことを考えた。彼女はいつも自分に正直で、自由だ。我侭を言われても、その真っ直ぐさに思わず微笑んで受け入れてしまう。何一つ曲がっていない。ひたすらに真っ直ぐだ。私にないものが彼女にはある。
公園は闇に包まれ始めていたけれど、夜風はいっこうに涼しくならない。冒険は出来ない。そんな歳でもないはずなのに。関係を守りたくて大人になってしまう。会話は途切れない。すき、きらい、すき、きらい、すき・・・子供のころ教わった花占いを思い出す。

見上げた夜空では、雲が風に吹かれて糸をひくように流れていた。雲のかかった満月は霞んでいた。
「すき、きらい、すき、きらい・・・」
信号は青だった。
「・・・すき」
臆病な自分を、今はまだ許してあげよう。
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