名も無き花
「いらっしゃいませー、こちらに、お名前を書いてお待ちください」

そう言って、予約者リストへウェイターが案内する。

『カンダ』と、カタカナで雑に書いて辺りを見回す。


順番待ちが多くて座る場所がない。


「人おおいねぇ」

水谷さんが、声をひそめながら言う。


「最近、話題の店らしいからね」

あ…。会話を切ってしまった。非常によろしくない。


次の話題を考える。


「水谷さんの好みは?」


「ん?何をいきなり…そんなの昭ちゃんに決まってるじゃん」

恥ずかしそうに目をそらす動作がたまらない。

…じゃない、ラーメン屋で男の好みの話なんかするかー!!

しかも待ち合い所で。他の客の視線が痛い痛い痛い。


「あ…ありがと!照れるなぁ…」

絶対、俺の笑顔は引きつっているに違いない。


しかし、照れるのは事実だ。
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