名も無き花
水谷さんに気を取られすぎてラーメンの味もチャーシューの口触りも全く分らない。

それでもまぁ幸せな気分。

ラーメンをすすりながら思わず何度も前に視線を送ってしまう。


「昭ちゃん!」

「はい!?」

いきなりの呼び掛けに声が裏返った。



つまり最悪。



「アハハ、どしたの?声裏返ってるし、おもしろーい」

水谷さんの甲高い笑い声が鼓膜を心地好く満たした。

第三者なら、五月蠅さにイラッとくるところだろうが、当事者は違う。


「さっきから落ち着きがないぞぉー。どうかした?」

「いや別に……。」

「そぉー?」



意地悪そうな視線が俺をなめ回す。
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