名も無き花
声に出しても聞こえないので、いつものように予めベッドの上に置いてあるケータイの画面が見えるように姉の頭を動かす。

『じゃぁ、うちより起きるの遅かったから罰ゲームね?』

「でもあれは…」

姉が拒んだら、足で床に置いてあるプレイヤーのボタンを操作する。

曲が高速再生に切り替わる。

地獄までの時間が一気に縮まっていく。

「いや、やめて。お願い!!罰ゲームでもなんでもするから」

泣き出した。元々うちより力のない姉には勝ち目がない。

「お願い…。」

姉の体から力が抜ける。あたしは、それを見計らって早送りする。

姉は無言だが明らかにおびえてる。曲の最後は静かなので余裕で耐えられるだろう。

姉が、近付く地獄におびえる姿を見るのが何より好きだ。
変わる寸前に、イヤホンの接続を切った。妹としての優しさ?

「あ…ありがとう」

泣きながら、うちに抱き付いて来た。か…カワイィ。姉の頭を撫でながら、ベッドのしたから玩具を取り出すと、姉のももの上に放った。

「じゃこれ装着してね♪」

「……」

反論することなく姉は掛け布団の中に隠れながら身に着けた。

「これでいい?」

うちは、姉の装着位置を確かめるために手を伸ばす。
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