名も無き花
こんな私にも1人の娘がいる。
高校が他県のせいで、一人暮らしをしている娘とは、メールでやりとりしている。
休日に決まって届く娘からのメールは、三度の飯より大切で、帰りの酒より楽しみだ。

届いたメールは十回以上読み返し、返事は2時間かけてかく。

そうしている少しの時間が私の幸せの全てと言ってもいいだろう。

メールはいつもパソコンを使っている。ケータイでは文が味気無くなりがちになるし、年頃の女の子のメールボックスに親父からのメールがいっぱいと言うのもいささか可哀相な気がしたからだ。

親バカではなかったが、今は娘以外に生きる意味が見あたらない。

いつの間にか夫婦の仲もくずれ、妥協を繰返すうちに仕事もつまらなくなった。


だが娘のためなら耐えられる。娘のためなら、クズみたいな上司にペコペコ頭下げるのも、腐りきった空気の中で妻の口うるさい小言に付き合わされるのも、安月給に極小の小遣い、ゴミ虫の群がる通勤ラッシュに反吐のでるような不味い飯…。

娘のためならなんだって耐えられる。見下されようが後ろ指差されようが知ったことではない。

そう、全ては娘のため…。
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