名も無き花
気分が落ち着いてくると同時に痛みが目を覚ました。

痛みは安堵感を蝕み、食らい尽くされたころ、むき出しにされた行き場のない罪悪感が目と口から、雫となって、おえつとなって溢れ出す。

あたまん中の、水門を閉める事はできなかった。

「ごめんなさい、ねーさん、ごめんなさい、許してください、うわぁぁぁぁぁ」

枯れたはずの喉は元気を取り戻し姉に許しを乞う。いや、とっくに限界なんか越えていたかもしれない。
最後の命を燃やして、絞り出した精一杯の懺悔。きっと天に届いたりはしない。地に墜ち逝く雫と共に地獄へ落ちたに違いない。

「うっ…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」

「分かったから、落ち着いて」

姉の声が心地よく耳の中に響く

「もう、ねーさんを独りにしないでね」

その優しさがうちの心に爪をたてる。手なんかより痛かった。痛くて痛くて死にそうだ。

今でも忘れない、あの日は鮮明にうちの頭に蘇る。

「どしたの?目が潤んでいるぞぉ?」

姉の声が記憶の旅からうちを呼び戻す。
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