名も無き花
「すごいねあの看板」

予想外に、水谷さんが反応した。
確かにすごいのだ…。

どれくらい?

あれくらい。

大体、高さが2メートル 幅が1メートルくらいで、本の表紙が印刷されている。
そこに、真っ白な文字で宣伝が書いてあるという。

とにかく派手だ。

「そだねー、前作のファーストキスって今ドラマやってるよね」

あ・・・、やばい。
見てもないのに、話題にしてしまった。

「あー、あれね。あまり見てないんだぁ」

なんとも、ラッキーな!
しかし、女の子じゃ見ていない方が珍しい気がするんのだが…あえて突っ込まないでおいた。

「じゃぁ、ちょっと覗いてみよか?」

またやっちまった…。
どうしてこう、気づくと口が動いているんだろう?
無意識というのには、つくづく恐怖を感じる。

「うん、いいよー!実は、あの本読んでみたかったんだよねぇ」

水谷さんがこういう乗りの人でほんと助かった…。
その声と、腕に引っ張られて店に流れる俺。



ちょっと、肌寒い風が二人の距離を縮めてくれた。
そんな秋のプレゼントに俺はそっと感謝した。
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