刹那
第5章~死道~
彼方
--次の日--
「…ありがとうございました…。」
あたしは車椅子に乗せられて
看護師さんと一緒に病院中を半日かけて検査して回った。
「優李ちゃん。
今日はもう自由だから。
お部屋で自由にしててね。」
看護師さんが言った。
…あたし、”ゆうりちゃん”なの?
いつまでここにいるの?
「あの…。
あたし、昨日までのこと
全く覚えてないんですけど…。
何がどうなってるんですか?」
あたしは不思議でしょうがなかった。
なんで自分が”ゆうりちゃん”と呼ばれているのか。
なんでこのだだっ広い病院中をぐるぐるまわって検査してるのか。
なんで昨日、ショートカットの女の子と暗いおばさんがいたのか。
なんで全然知らないところで全然知らない人としか会わず誰と会話することもなく狭い狭い部屋に閉じ込められているのか。
あたしの考えてることが分かったのか、看護師さんが教えてくれた。
「優李ちゃんは今、記憶を失くしているの。
だから、検査をして、治すの。
それまでは、ここで入院しててね。」
そうなんだ。
あたし、記憶喪失なんだ。
ふーん…。
不思議と怖くはなかった。
何か、もっと怖いものが後にいる気がして。
記憶喪失なんてまだまだだと思った。