初恋

キンモクセイ

セーラー服も、夏服から冬服への移行期間が始まった10月の半ば。


あたしは正念場を迎えていた。


「――ホテル行かない?」


とうとう来たか。

今までも2回ほど、その言葉を先生から聞いていたのだが――


『あ、あたしオンナノコの日なんです!』


『あ、えっと今日ちょっと腹痛が痛くて――!』


もちろん2回とも、その日は健康優良児でした。

思わず、怖くて断ってしまったあたし。


でも先生は、あたしの下手なウソをわかってて、何も言わずにいてくれる。


そんな先生を待たせてることが情けなくて――

次こそは!と腹をくくってきたはずだった。



でも。

やっぱりいざとなると、恐怖や緊張のほうが先に出てしまう。


「――いいよ、やめよう」


あたしが何も言えずにいると、先生は少し冷たく言い放った。


――どうしよう。

先生を、怒らせたくない。


「い、行きます!」


思わず、あたしの口から出た言葉を――

先生は、聞き逃さなかった。


にやりと微笑む。


「言ったな」


――罠でした。

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