初恋
結局、あたしはお母さんの言いつけを守らなかった。


先生が来るのを、待っていた。


「――寒いなぁ」


つぶやいた息は真っ白に凍り、冷たい風の中に消えていった。

雪こそ降らなかったが――とても寒い日だった。


手袋をはめた指先も芯から冷えきり、足元から冷えが上がってくる。



先生は、来ない。


待ち合わせに遅れるような人ではない。

でも、ケータイに連絡すら来ないまま――もう30分ほど経っている。


あたしは、カバンから、アキちゃんと一緒に選んだネクタイの入った箱を取りだした。


先生、遅いなぁ。


あたしは曇った空を仰いだ。

いつになく雲が多い。


すると先生の車が遠くに見えたので――あたしは急いでプレゼントを隠した。


「ごめん、遅くなったな」


あたしの身体は冷えきっていた。


「いえ――」


とりあえず車に乗り込むと、車の中は心がゆるむくらいに暖かかった。

でも。


「ほんとにごめんな」


シフトチェンジをして――あたしの手を握りしめてくれた先生の指先は、

あたしと同じくらい、冷えきっていた。
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