初恋
『顔あげて』
言われるがまま、びっくりして顔をあげると――
20メートルほど先に、ケータイ片手にこちらを見つめる雄太がいた。
「びっくりしたよ」
「うん、驚かせようと思って」
雄太はひとなつっこい笑顔を見せた。
夕暮れの桜並木の下を――雄太とふたり、手をつないで歩く。
春には花見客でいっぱいになるくらいに桜の花が満開に咲き乱れるが、
今は来年の春のために生い茂った緑の葉が、濃い陰を作り出している。
あたしは陰だけを踏んで歩いた。
手をつないでいるから――雄太もあたしに手をひかれて、陰へと足を踏みいれる。
「ごはん、どうしようか」
「ぼく零ちゃんの料理が食べたいな」
雄太は甘えるのがうまい。
「ハンバーグとかね」
ハンバーグはあたしの得意料理。
うちの母親秘伝の煮込みハンバーグは――煮込むソースに、ホールトマトとウスターソース、隠し味で野菜ジュースを入れるのがポイント。
昼間より大きくなった太陽はすっかり家の陰に隠れて――あと少しで完全に姿を消してしまう。
あたしが踏んでいた陰も、夕闇に同化して――見えなくなっていった。
言われるがまま、びっくりして顔をあげると――
20メートルほど先に、ケータイ片手にこちらを見つめる雄太がいた。
「びっくりしたよ」
「うん、驚かせようと思って」
雄太はひとなつっこい笑顔を見せた。
夕暮れの桜並木の下を――雄太とふたり、手をつないで歩く。
春には花見客でいっぱいになるくらいに桜の花が満開に咲き乱れるが、
今は来年の春のために生い茂った緑の葉が、濃い陰を作り出している。
あたしは陰だけを踏んで歩いた。
手をつないでいるから――雄太もあたしに手をひかれて、陰へと足を踏みいれる。
「ごはん、どうしようか」
「ぼく零ちゃんの料理が食べたいな」
雄太は甘えるのがうまい。
「ハンバーグとかね」
ハンバーグはあたしの得意料理。
うちの母親秘伝の煮込みハンバーグは――煮込むソースに、ホールトマトとウスターソース、隠し味で野菜ジュースを入れるのがポイント。
昼間より大きくなった太陽はすっかり家の陰に隠れて――あと少しで完全に姿を消してしまう。
あたしが踏んでいた陰も、夕闇に同化して――見えなくなっていった。