初恋
「零は将来、何になりたいの」


「うーん...」


その質問にすら、答えることができなかった。

何か明確な目標があって――大学に入ったわけじゃなかったから。



なんで数学科に入ったの?



よく周りからそんな質問をされるけれど、あたしは今までその答えを濁し続けていた。



――零って、いい名前だな。



あの日のあの、先生の言葉が――いまだに頭の中をうろうろしている。

早く消えてほしいのに、なかなかあたしの頭の中から出ていってくれない。


数学科に入ったのは――

数学を好きな人を好きになってしまったから。


そんな不純な動機じゃ、だめですか?



「院試の準備はしてる?」


あたしは横に大きく首を振った。


「就活は?」


「いやぁ...」


アキはため息をついた。


「あんたがのんきなのは昔から知ってたけど...どうすんのよ、これから」


あたしもアキと同じように、ため息をついた。


できることなら、あたしも誰かに聞きたいくらいだよ。

あたしはこれからどうすればいいんですか?って。

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