初恋
「でも、なんでそれが酸性やアルカリ性に関係あるんですか?」


先生の口から出てくる言葉のひとつひとつが面白くて。

あたしもどんどんのめり込んでいく。


鶴城先生と話しているという実感があまりにもなさすぎたから、こんなにもうまく喋れたのかもしれない。


「ああ、よく気づきました。酸性下だと、アルミニウムイオンが溶け出しやすいんだよ。だから、大まかな説明になると、酸性かアルカリ性かってことだけで片付けてしまうわけです」


「――なるほど。すごいんですね!あじさいって」



先生はあたしの前で微笑んだ。


「よかったよ。理解してもらえて。化学教師のタマゴとしては――ひと安心」


その笑顔があまりにも眩しくて、あたしは思わず下を向いてしまった。

急に速くなる胸の鼓動をおさえたくて。


どうしよう。

ドキドキして、息をするのも苦しかった。


「――えっと、たしかきみ、宮崎先生のクラスだよね」


残念ながら、先生はあたしの名前なんて憶えてもいなかったのだけど。


「はい、3組の...沢村、零です」
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