初恋
タイムリミットは、刻々と迫ってきていた。



「それじゃあ、授業を始めます――」


金曜日の、5時間目。

教室の後ろには、他の学年の先生たちやら、教頭先生までがズラリ。


今日は鶴城先生の、研究授業の日。



教壇に立った先生は、また一段とかっこよく見えたから、

なんだかやっぱり胸の奥が苦しくなってしまった。


「――この反応は、以前習った光合成とは反対に、呼吸と呼ばれます」


今日は、先生の専門とは違って、生物分野の授業。

中学校の理科の先生って、よく考えたら大変だよね。
化学も、生物も、物理も、地学も勉強しなきゃいけないんだもんね。



「植物だって、呼吸をして酸素を取り込まなければ生きていけません。したがって――」


いつもならきっと、目を爛々と輝かせて聞いてたであろう鶴城先生の授業。

でも今日は――



胸が苦しくて、集中できないよ。

先生とは、もう今日で最後。


もっといろんな話がしたかった。
もっともっと、先生のことを知りたかった。


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