初恋
「えっと、じゃあ――教科書、読んでもらいましょう」


そう言うと、先生は出席簿を開いた。

予習はバッチリしてきました!
だから先生、あたしを指名してよ。

先生に名前を呼ばれたら、あたしの印象も先生の中に少しは残ってたんだなって思えるから。



その瞬間、先生と目が合った――気がした。

あたしの胸の鼓動は一気に跳ね上がる。




「じゃあ...安藤さん。30ページを」


 ――――

あたしのささやかな願いさえも通じず、ため息をついた。

出席番号が1番の安藤さんは、指名されるのを予想していたかのようにすぐに立ち上がった。


そりゃ先生。
出席番号順に呼ぶのが一番ラクだし、みんなからのひんしゅくも買わないってのは、あたしだってわかるけどさ――


やっぱり先生の中では、あたしなんて何でもなかったのかなって、

思い知らされる。





結局。
その後の先生の指名はあ行にとどまり、

“沢村”は呼ばれることなく授業は終わった。

< 22 / 280 >

この作品をシェア

pagetop