初恋
「そうだな...――知らないとこがいい」


「遠く?」


「そう。誰もおれらのことなんて知らないようなところ」


ずきり、と、胸の奥が苦しくなった。

ひとみさんとの一件以来、改めて先生への気持ちに気づかされていた。


それと同時に――大きな、戸惑いも憶えていた。


「なあ、ほんとに行かないか?ふたりで」


以前のように、先生の言葉を突っぱねることができない自分がいる。


それはあたしを笑ったひとみ先輩に対するあてつけのようなものなのか――

それとも。


「週末、待ってるから」


その言葉に、あたしは動けなくなった。

先生の射るような視線が、たまらなく痛い。


氷の溶けたアイスティを一口くちに含んで、あたしはひとつ息をついた。


「――行けるかどうか、わかりません」


やっとのことでしぼり出した言葉は――先生の余裕の微笑みの前では、なんの力も持っていなかった。





「おまえは来る。絶対にね」


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