初恋
海をめざして順調に進んでいた車だったが、いつの間にか景色は海沿いではなく――山に囲まれた町並みになっていた。

それほど高くはない山々が、四方を囲んでいる。


先生の頭の中の行き先が変わってしまったのか――でも別に、それでもいいと思った。

街の喧騒と、あたしの心の中のざわつきから逃れるにはいい場所だと思った。


のどかで、のんびりとした景色の中――そこだけ時間が止まったような錯覚に陥る。


「もう少しで着くから」


先生の言葉どおり、駐車場とおぼしきものが突然現れた。


「――なにか、あるんですか?」


「うん。綺麗なとこ」


へぇ、と曖昧に相づちを打って、あたしは車を降りた。

普段、車に乗らないせいか、たった2時間程度のドライブで、すっかり腰が痛くなってしまっている。


あとはやっぱり、実は緊張していたことも原因のひとつ。



さわやかな秋風が鼻をくすぐって、

それはもう、あたしの知らない景色のにおいだった。

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