初恋
身体を離すと、まだこれからたくさん抱きしめてもらえるとわかっていても――

そのぬくもりの名残惜しさだけが胸に残る。


先にベッドのふちに座った先生が、あたしに優しく微笑みかけた。


「おいで」


言われるがまま、あたしが先生の隣に遠慮がちに腰を下ろすと、

そのまま押し倒されるのかと思いきや、先生は着ていたジャケットのポケットをもぞもぞしだした。


不思議に思いながら見守っていると、その手の中から出てきたのは――少しだけ色あせた、赤い小さな箱。


「やっと渡せるよ」


その箱には見覚えがあった。

ひどいケンカをしたあのクリスマスイブに――


「開けていいですか?」


箱を開けると、中には紫色の光を放つ指輪が入っていた。

まるで、付き合ってすぐに買ってもらったあの指輪のよう。


「おまえ、太ってない?」


「え!?」


「指のサイズ、あの頃のまんまならいいんだけど」


指輪をつまみあげて、先生はいたずらっぽく笑った。

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