初恋
「付き合ってたころのクリスマスはケンカしてただろ?あの時にほんとは渡そうとしてたの」


もう、言葉にならなかった。


綺麗なアメジストの埋め込まれた精緻な作りの指輪は、もうあの頃のようなオモチャではない。

先生が、あたしの左手の薬指にそっとはめてくれた。


「――なんで、指のサイズ知ってたんですか?」


今にも泣きそうになっているあたしの頭をなでながら、先生は、馬鹿だなぁ、と笑った。


「おれはなぁ――仮にもおまえの“彼氏”だったんだぞ?」


指輪のサイズくらい、と、先生はあたしをまた抱きしめた。


胸の奥をぎゅうっとつかまれたようになって、あたしは泣くのを堪えきれなかった。

嬉しくて泣いたのが半分と――


もう半分は、先生の言葉が過去形だったこと。



当たり前のことだし、頭ではわかっていたはずなのに。


どうしようもないくらいあふれるなみだを止めることができずに、あたしも先生も途方に暮れていた。


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