初恋
泣きながらも、あたしがポケットの中から昔もらった指輪を取り出したのには――先生もずいぶんと驚いていた。


「まさか、あの時の?」


何度捨てようと思ったことか。


指輪を捨てて、先生との思い出を全部捨ててしまえば――

先生のことを、忘れられたのだろうか。


「そんなに、おれのことが好きだったか」


まだあたしを子ども扱いして、からかう先生の胸の中、

あたしはたまらなく悔しくて先生の胸やら肩やらをぽかぽか叩いた。


するとふいに、手首をつかまれて身動きが取れなくなった。

抵抗してみたところで――強い力で押さえつけられるようにベッドに身体が沈む。


「――零」


低い声で名前を呼ばるだけで、ぞくりと身震いしてしまう。

ゆっくりと先生の影が覆い被さってきて――あたしは目を閉じた。



久しぶりのキスは、ほんのり煙草の香りがした。



「ずっと、こうしたかった」






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