初恋
そしてすぐに先生は、あたしの口紅にめざとく気づいてしまった。


「おまえ口紅つけるの?」


それはあたしが唯一持ってる――雄太からもらったプレゼント。

そんなものを、なぜつけてきてしまったのか、自分でもよくわからなかった。


もしかしたら、口紅が似合うくらい大人になったあたしを、先生に見せたかったのかもしれない。


「男からの貰い物か?」


女は勘が鋭い、ってよく言うけれど、この時ばかりは先生も負けちゃいなかった。

口紅の送り主をぴたりと言い当てて、すぐに自分の手のひらをあたしのくちびるに押しつけた。


「おまえには似合わないよ。前にも言っただろ。おまえはそんままがいい」


ぐいっと強引に拭われて、またくちびるが重なる。


先生が触れるところが、自分でもびっくりするくらいに熱を帯びていく。



これから起こることに思いを馳せると、胸がはりさけそうなくらいドキドキした。

果てしなく深い穴に堕ちてしまいそうな感覚の波に襲われ、あたしはきつく目を閉じた。


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