初恋
「そういえば――」


ふと、先生のキスが止まった。


「ひとみの親父が先週亡くなった」


「え...」


あまりにも突然のことに、あたしは言葉を失った。


「だから、法要とかが済んで落ち着いたら――もう、おれも結婚することになると思う」


「そう...ですか...」


頭ではわかっていたことなはずなのに、いざ現実をつきつけられると、戸惑ってしまう。


ひとみ先輩のお父さんが、あまりよくないって話も前々から聞いていた。

その都合で結婚式を延期していたことだって。


「そっ、か...」


小さくつぶやいたあたしの声は、闇の中に消えていった。


「――やり直さないか?」


「え...っ?」


「今ならまだ間に合う」


とっさに、先生がなにを言っているのかわからなかった。

見上げた先生の顔は、今まで見たことがないくらいに悲しそうな表情をしている。


「なに言ってるんですか...」


あたしは反射的に、笑って目を反らした。


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