初恋
ふと目がさめると、先生の胸の中にいた。


いつの間にか、そのあたたかなぬくもりに包まれてうつらうつらしていたらしい。

細いわりに筋肉質な腕が、あたしの身体をしっかりと抱きとめている。

身体をずらしてみても、その腕はあたしを閉じ込めて解放してはくれない。



寝顔は――なんだかいつもと違う印象を受ける。

切れ長の目が、長いまつげの影をうけて、柔らかな表情になっているからかもしれない。


思わずまじまじと見入ってしまう。

付き合っていた頃に、先生とお泊まりした経験はないから、寝顔なんて見るのは初めてだった。



愛おしさでいっぱいになる。

こんなにも好きなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。


そしてこれから、

あたしたちふたりはどうなるのだろう。





その時あたしは聞いてしまった。

先生の、ごくごく小さな寝言。



「――零...」




言いようのない切なさに襲われて、あたしはなみだが止まらなかった。



先生は今――

どんな幸せな夢を、見ているのだろう。



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