初恋
海を見つめながら、

“駆け落ち”ってこんな気分なのかな、なんて考えていたけど――


そんな甘いもんじゃなかった。



あたしたちふたりには、

駆け落ちをするほどの希望と心の強さがあるわけでもなく、

だらだらと引きずったまんまの不倫関係になるほどの度胸と図々しさがあるわけでもない。



だから現にこうして、あたしは逃げ出している。

あんなにあたたかだった先生の腕の中から。



外の世界は、ひんやりと冷たい。



――結局は、自分が可愛かっただけなのだ。

世間体が気になって自分の気持ちに正直になることもできなければ、
お互いのためにも先生への気持ちを振り切ってかたくなに拒むこともできなかった。






朝もやのかかった河辺を歩きながら、あたしは大きなため息をついた。


あたしは...最低な女だ。

昔のような純粋な心のまんま、先生を愛することができたなら――

そうどんなに後悔しても、もう手遅れ。



さっき調べた時刻表によると、始発まではもうあまり時間がない。

早く先生の元を離れてしまいたかった。

< 272 / 280 >

この作品をシェア

pagetop