初恋
渡せなかったネクタイは、ベッドサイドに残してきた。

あたしが先生を――愛した証。



山に囲まれた町の空気は澄んでいて、深呼吸をすると少しは気持ちが落ち着くようだった。


ケータイを開くと、先日の雄太からのメールを思い出した。

雄太の誘いを無視して、先生の元へ来てしまったから。


雄太は怒っているだろうか。


『ごめんね』


そうメールを打つと、思いがけずすぐに返信がきた。


『遅いよ(>_<)もう眠い…!今どこ?』


まさか、あたしを待ってたの?

胸の奥が苦しくなった。



あたしは今――知らない町にいるよ。

好きだった人と、ふたりで。



空を見上げると、白い月が今にも朝の光の中に消えそうになっていた。

先生への想いも重ねて見る。



先生からもらった指輪は、あのネクタイと一緒に置いてきてしまった。

先生があたしを――愛した証。


「持ってくればよかったかな」


そう声に出すと、自分でも気づかぬうちになみだがあふれでていた。





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