初恋
でも現実が、そんなに簡単にあたしを許してはくれないことだって、あたしは知っている。


「――飲みなよ」


そう言って雄太が出してくれたのは、いつかのキャラメルミルクティだった。

肌寒くなってきたこの季節に、この甘い香りはなんともいえぬ幸せな気持ちになる。


マグカップは、一昨年のクリスマスにふたりで買った、おそろいのペアマグ。


これもついに、使わなくなる日がきちゃうのかな。


「大事な話って言うと、なんか改まっちゃうからイヤだな」


色違いのマグカップに同じものをいれながら、雄太が困ったように笑った。

その表情からは、なかなか心の中は読み取れない。


大事な話。

そういえば、先生からもそんな言葉を聞いたことがあった。


でもあの時は結局、その内容を聞くことはできなかった――

きっとこれから先も、一生聞くことはないだろう。


外の世界に出れずに消えてしまったその言葉に、あたしは思いを馳せた。

今さらながら気になってしまう。


先生はあの時、何を言おうとしていたの?

< 275 / 280 >

この作品をシェア

pagetop