初恋
「これ、零ちゃんに」


急に、雄太が手品のように小さな箱を差し出した。


「――なに?」


「いいから。開けてみてよ」


雄太に言われるまま、綺麗なサテンのリボンのかかった包みをといた。

さらに中からでてきたのは――真っ赤な、四角い宝石箱。



――嫌な、予感がした。


いや、“それ”が仮にほんとうに“それ”だとしたら、

女として、これ以上の喜びはないはずである。


なぜか、頭の中でその予感を振り払っている自分がいる。

あたしの勘違いであってほしいと願っている自分がいる。


「――零」


雄太があたしの名前を呼んだのは、ちょうどあたしがその宝石箱を開けた瞬間だった。


「雄太...」


中には、小さいけれども――イミテーションとは思えない輝きを放つ、ダイヤのリング。

頭の中が、恐ろしいほどぐらついていた。


混乱して、これがどういう意味なのか、雄太に聞いてしまいそうになる。



言わずとも――



「結婚、してくれない?」



わかっていた。


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