初恋
先生の答え次第では、自分の気持ちを伝えてしまうつもりだった。

大事な生徒でしかなかったら、素直に生徒を続けよう。


でももし――。



だって、もう日の傾きかけた空がうらめしくてしょうがない。

この勉強会が終わったら、先生に会えることなんて、いつになるかわからない。


受験はもうすぐだから――

必然的に、先生と会う理由は無くなってしまう。



そうなる前に、少しでもいいから可能性にかけたい衝動に駆られていた。





「おまえはおれの、お気に入り、なんだよ」





今日も車で送ってくれようとした先生を断って、あたしはひとり夜道を歩いていた。


お気に入り。

その言葉を放って、あの時先生はニヒルな笑いを口元に浮かべたのだった。


おかげで、今にも告白しようとしていたあたしは、思わず言葉を飲み込んでしまった。

あの先生の笑顔が悔しい。


でもやっぱり、そんな先生はあたしのかけがえのない人。


「受験が終わったら――」


あたしがひとり、そう呟くと、吐いた息が白く凍って、闇に消えていった。
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