初恋
でも、あたし鶴城先生のことなんにも知らない――。

知ってるのは、幡悠大学の理学部の化学科の3年生で、
中学理科の教員免許を取ろうとしてるってことだけ。

あと、高校化学の免許もだっけ。


担任の宮崎先生が、理科の先生でほんとによかったって思ってる。

だって、理科の担当じゃなかったら――もしかしたら鶴城先生がうちのクラスに来なかったかもしれないんだし。

ほんと、宮崎先生さまさま!
感謝してます。



席に戻ったあたしは、ふたたび物思いにふけった。


黒板からの帰り道、チラッと横目で見た鶴城先生は、やっぱりかっこよくて。

教室の右後ろの隅っこ――先生には小さすぎるような机で、熱心に宮崎先生の授業を聞いている。


ずっとメモばっかとってる。
うわー、ちっちゃいふでばこ...いかにも男のものってカンジ。
ペン何本入ってるんだろ。

あ!あの赤ペン、あたしのとおんなじ――


「――ここは入試に出やすいぞー」


にやにや。


宮崎先生、ごめんなさい。
先生の話、なんにも聞いてないです。スミマセン。
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