初恋
迎えた、花火大会当日。


「ふぅ――」


散々迷ったあげく、浴衣は着ないことにした。

浴衣だと――あまり自由がきかないし、なによりも先生と待ち合わせる時間を遅くしないといけない。


『おれは別にどっちでもいいよ』


先生のそのひと言で、そう決めた。

少しでも長く、先生と一緒にいられるほうがいい。



「結構混んでるな」


花火があがる湖の近くには、あまり駐車場がない。

夕方6時、湖の周辺の主要道路はもうすでに混み始めていた。


「ですねぇ...」


打ち上げ開始は7時半。


「うーん――」


突然、先生はハンドルをきって、反対方向へと車を走らせ始めた。

どうしたものかと、あたしが先生の顔をうかがっていると――


「金魚すくいがしたいわけじゃないよな?」


「え、あぁ...そうですけど」


「よしよし」


先生は笑って、そのまま車を走らせ続けている。


「花火見ないんですか?」


あたしは不安になってそう尋ねた。


「まぁ――楽しみにしてなさい」
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