僕の街には今日も雨(涙)が降る…。
「ねぇ、あれ飛夏羽ちゃんじゃないの?」
「え?あ、本当だね。」

 純が指差したドアの所には飛夏羽の走って行く姿が小さく見えた。

「…行かないの?行かないんだったら俺、行くけど。」
「行くよ。」

 純に先を越される前にと思い、優都は急いで飛夏羽を追いかけていった。

「お忙しいお方だねぇ、優都君も。」

 純は鼻で笑うと、零と李麻を連れて、飛夏羽と優都を追いかけた。

 飛夏羽は息を切らしながら屋上に着き、手すりの前で座り込んだ。

 生き別れになった実の兄が、今、目の前に立っている。
顔も覚えていなかったのに、何故覚えていたのか。
それは、兄の頬に痛々しく残っている傷跡だった。

「…刹兄ちゃん…」

 飛夏羽は震えながら兄の名を呼んだ。

 優都が何も言わずに屋上に入って来て、飛夏羽の肩を叩いた。

 飛夏羽は驚いて振り向き、優都の顔を見ると安心して少し笑顔が戻ってい
た。

「…優都…お兄ちゃんが…刹兄ちゃんが…東京に帰ってきたの…」
「…刹さんが?」

 飛夏羽はゆっくりと頷いた。
そして、頬を押さえて優都の目を見つめた。

「まだ頬に残ってる傷跡…あれで…お兄ちゃんだって分かったの…何で私…こ
んなに弱いんだろうね…」

 飛夏羽は切ない顔をして、優都から目を逸らした。

 そんな飛夏羽の切ない顔を見た優都は、何も言う事が出来なくなってしまっ
た。

「…たくっ、何やってんだろうな、この女!」

 優都は驚いて飛夏羽を見た。

 飛夏羽が急に吹っ切れたように言葉遣いを荒くして話し始めたのだ。

「飛夏羽!如何したんだよ!?」

 優都は焦りながらも飛夏羽の目を見つめた。

 飛夏羽は不気味に笑いながら立ち上がると、優都の目をじっと見つめた。
丸で飛夏羽の目つきは獲物を狙っている動物のようで、優都は飛夏羽の目を見
て初めてぞっとしていた。

 飛夏羽はにっこりと笑ったまま優都に冷たく問いを投げ掛けて来た。

「一寸優都、聞きたい事があるんだけどさ。如何してこんな私と一緒に居る
訳?迷惑とかほざいてて疲れるんじゃないの?」

 飛夏羽の急な問いに、優都は黙り込んでしまった。
それでも飛夏羽は気にせずに、更に優都を問い詰めた。
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