PEACE
第一章 失われた記憶
第一話 「陽炎」
私は一人、暗闇の中を走っていた。
耳に入るのは息遣いだけ。
――いや、他の音が聞こえるのを拒んでいたのかもしれない。
見たくなかった。
大好きな家族と過ごしてきたあの城が、炎に包まれているのを。
聞きたくなかった。
城から聞こえる、苦しむ人々の声を。
誰一人として私を助けてはくれない。
だから、ただ、ただ、走るしかないんだ。
この先が見えない、暗闇の一本道を――。