PEACE
* * *
「記憶喪失!?」
雪夜は驚いた顔で奈久留に言った。
「うん。だから、あなたのことも分からないの」
奈久留は眉を垂れさせて悲しそうに返事をした。
奈久留は雪夜とどのような付き合いだったか思い出せなかったが、雪夜の自分への接し方から知り合いなのは確かなことだとわかり、自分のこと全てを雪夜に話したのだ。
「そうか……。それじゃあ、ここが何なのかもわからないのか?」
「うん」
少しさみしそうに聞いてくる雪夜をみて、つらくなる。
「ここは、五年前まで奈久留が住んでいた城だよ。俺の、五年前まではここで働いていたんだ」
「そうなの!?」
初耳だったようだ。
てっきり、生まれてからからずっと今の城に住んでいいると思っていたのだ。
(確かに、それならあの肖像画も説明がつく。でも、なんで言ってくれなかったんだろう? 私のこと心配して? ……あのおじいちゃんならあり得ない話ではないか)
過保護なのもいい加減やめてほしい、と奈久留はため息をつく。
「その様子じゃあ、五年前に何があったか、奈久留の親父さん達がどうなったかも……記憶に無いってことか」
「それなら知っているよ。五年前、私が暗殺されそうになったって話でしょう? お父さんとお母さんが死んだっていう話は、記憶を無くしてすぐに橘に説明させたわ」
「暗殺!? 死んだ!? ……いや、そんなこと……」
雪夜は顔をしかめてる。
「奈久留。……その橘っていう奴は誰なんだ?」
雪夜は真剣な眼差しで問いかけてきた。
「橘は私の専属執事なの。私が記憶を無くす前から城で働いて、おじいちゃんの側近もやっているの。ちょっと失礼なやつだけど」
しばらくの間、雪夜は黙っていたが、しばらくするとゆっくりと口を開いた。
「俺の知っている限り、橘なんて人、城にいた記憶はない」
雪夜がそう答えたのと同時に、街の方から爆発音が聞こえた。