PEACE
「大丈夫だ。心を落ち着かせるんだ」
後ろから、優しく抱きしめられていた。
「雪……、夜?」
嗚咽感が迫りくる中、涙で潤んだ目をあけようとした。
だが、すかさず雪夜の手が奈久留の目を覆う。
「そんな状態で、目を開けようとするな」
その言葉で、また思い出してしまう。
横たわる兵士達。
あの美しかった城に飛び散った兵士達の血の跡。
また体が震え出してしまう。
雪夜はそんな奈久留の震えを止めるように、強く、けれど優しく抱きしめた。
不思議だ。
雪夜の腕の中で、奈久留はそう思った。
なぜだか雪夜の腕に安心し、段々と嗚咽感や震えがおさまってきたのだ。
まるで、この腕の中を知っているかのように――。
「雪夜は……なんでここにいるの?」
気持ちも落ち着いたところで、今だ奈久留をだきしめたままの雪夜に問い掛けた。
「街があんな騒ぎになっているのに、お前が一人で行くもんだから急いで後を追ってきたに決まってんだろ? しかも、ファルコを置いていくし」
ため息混じりにそう答える。
奈久留に体を擦り寄せるファルコの頭を、優しく撫でた。
「ごめんね……。ファルコ」
確かに安易だったかもしれない。
とにかく城に戻って、この騒ぎを一刻も早く止めたかった。
けれど考えてみれば、もしかしたら自分にも何か起こる可能性だってあるはずだ。
急いで自分を追いかけきてくれた雪夜に対して、申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
――『奈久留』
突然、脳裏におじいちゃんの顔が浮かんだ。