PEACE


「時間がない。いいか? 二人とも」

祖父は二人を真剣な眼差しで見た。

「奈久留。お前には今まで嘘をついていたことがある。お前の両親は生きているんだ」

「え……?」

奈久留の瞳が揺れ動く。

「五年前のあの日、お前の両親は暗黒ノ者に襲われ、誘拐された。そして今、世界は暗黒ノ者達によって滅びようとしている。暗黒ノ者達と長年、戦をしてきたのだが……わしの力が足りないせいで……」

祖父は顔を歪めた。

「奈久留、雪夜。お前達にこの世界の未来を託す。この国の王と女王……奈久留の両親を探しに行くんじゃ」

すると、祖父はずっと手に握っていた物を差し出した。

「雪夜。これは佐伯のヤツからお前に渡してくれと頼まれた物だ。なんとかアイツから守れてよかった」

雪夜は何か感づいたのか、すぐさま駆け寄った。

「これは、おじさんの羅針盤……!」

祖父は頷いた。

「今からお前達を異国に送る」

祖父は目を閉じて何かを唱えた。

この世界でいう魔術の一つだ。

祖父は自分の体を支えていた奈久留を、押し返した。

倒れそうになった奈久留の体を、雪夜が支える。

「おじいちゃん!!」

如何にも倒れそうな祖父を見て、奈久留は大声で祖父を呼んだ。

だがその瞬間、二人の周りに風が渦巻き始めた。

「奈久留。まず異国についたら最初に秘莱石を探すんだ。奈久留を頼んだぞ、雪夜」

苦しそうに荒い呼吸で、祖父は奈久留に言う。

雪夜はゆっくり頷いた。

祖父の顔は真っ青だった。

「何を言ってるの!? 今のおじいちゃんを置いて行けるわけないじゃない!」

「やめろ、奈久留!」

今にも走り出しそうな奈久留を必死で止める。

こんなんじゃまるで、もう会えないみたいじゃないか。

ボロボロと涙が溢れる。

「大丈夫じゃ。お前なら出来る。なんせ、……私の自慢の孫なんだから。愛しているぞ、奈久留」

最後に祖父は笑顔ではっきりとそう言った。

奈久留は顔を上げた。

風の渦が全身を包み込む。

祖父の顔が見えなくなる一歩手前で奈久留は泣きながらも、満面の笑みで祖父に笑いかけ、そして言った。


「いってきます」





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