PEACE
時は過ぎて真昼時。
城からは使用人達の声が響きわたっていた。
「姫様ー! 奈久留様ー!」
城とは思えない程の騒がしさだ。
宮殿と同等の広さをもつ緑に囲まれた庭園。
そこで使用人達は必死に探していた。
「まったく。どこにいったんだ! 姫様は。先生を待たせているというのに」
――そう。
奈久留は毎週ある勉強が何よりも嫌いなのだ。
そして、先程の“鬼ごっこ”。
その意味は、使用人達に紛れ、奈久留を探している専属執事――橘から逃げるということだった。
橘は、呆れたようにため息をつき、宮殿の中へと戻っていった。
(――やった!)
庭園の大きなマツの木。
その木の陰に、奈久留は身を潜めていた。
一番厄介な橘が去り、奈久留は歓喜をあげた。
「やっと行ったっ」
橘がいなくなったのを確認するように木の陰から顔を出した。
「クゥ~」
まるでその問いかけに答えるように、奈久留の肩に乗っているペットが言った。
狐と猫を合わせたような小柄なその体で愛くるしさを醸し出している。
「もうっ。橘も使用人の皆もしつこいんだもん」
庭園に誰もいないことを確認し、奈久留は木から飛び降りた。
ペットのファルコの頭を撫で、「よし、行こっか!」と足を踏み出した――が。
「姫様!」
背後から聞き慣れた怒鳴り声に、奈久留は足を止めた。
まさか――、と思いながら自分が冷や汗をかいついることに気がつく。
振り向くと、そこには使用人達を引き連れた橘がいた。