PEACE
「また授業をサボろうとしましたね~?」
顔は笑っている。
だが、あきらかに目は怒っていた。
「しかも、また無許可で庭園に出て……。周りに迷惑をかけないでください」
橘の言っていることは正論だ。
奈久留は橘の勢いにおされそうになったが、負けじと気を引きしめる。
「別にいいじゃない! 勉強なんてつまんないんだもん!」
「何度言ったらわかるんですか! 姫様は一国を担う王女なんですよ? もう少し自覚をもってください!」
その台詞を一体何度聞いただろうか。
奈久留はその言葉に、頬をプクリと膨らませた。
「だって……。記憶だってないし、私は今や存在しない人間なんだよ?どう自覚しろっていうのよ」
いきなりさみしげに呟く奈久留を見て、橘は内心焦る。
(傷つけてしまったのだろうか……?)
少し反省の色を見せながら、橘は奈久留の様子を伺った。
ひとまず、話を変えなければ、と。
「……姫様は、庭園がお好きですよね。いつもここにいらっしゃる。なぜなんですか?」
とっさに思い浮かんだのがそれだったらしい。
「まあ城の中で一番好きな場所だから」
「そうなんですか」
「うん! それに、この庭園にある裏道から門番に見つからずに街に行けるとっておきの場所だもん!」
「今、なんと言いました?」
奈久留は急いで口を塞いだ。
だが、それも遅かったようだ。
「姫様……」
橘の後ろに般若が見えた気がした。
あまりの恐ろしさに、奈久留は後ずさる。
「橘っ。落ち着こう! そんな恐い顔したら、折角のイケメンが……」
なんとか弁解を試みるが、無理のようだ。
橘は一呼吸ついて、言った。
「勝手な真似はするなと何度言ったらわかるんですか!!」
堪忍袋の緒が切れた。